高齢者の快適な住環境を求めて
今回の計画は、損保会社からの契約で研修棟(事務棟)と宿泊棟を建てたオーナーからの依頼である。
数年前から宿泊棟は使用されておらず、3年後の30年契約が満了する前に契約解除できることなったことから、新たな計画を求められた。
計画地は名古屋市でも有数の高級住宅地。計画にあたり市場調査をしたところ、同オーナーから14年前に依頼を受けたワンルームマンションが今でもこの地域のプライスリーダーとなっていること、地下鉄名古屋大学駅と八事日赤駅の中間にあり、近辺には老人福祉施設がないことから、所有のマンションと競合する施設では無い老人ホームの計画とした。
◆外観のイメージ
老人ホームというと4周を廻るテラスと避難スロープというステレオタイプが頭に思い浮かぶが、幸い名古屋市消防局の指導ではそのような条件は無かった。
施設に入居するのではなく、別荘に来たようなイメージを意識して、水平に延びる打放しのテラスと軽さと個別性を強調する垂直の白いパイプ柱の組み合わせとした。
外壁は職人の手の跡が感じられる土壁を削り取ったような面とプレーンな面との組み合わせにより、軽く浮かび上がるテラスの攻勢に対して深みを出すように心掛けた。
◆インテリア
生活の場として、1階の食事場はウッドデッキの先の緑の斜庭と石垣に面した雰囲気のものとした。2階から上階は居住エリアとなり、おやつの時間に集まるティールーム、機械浴室や一人で入る浴室を配した。
各階のイメージを共通のものとする為、それぞれ「大地」「草原」「稔」「空」というテーマを設けた。
◆生活の場として
入居者のモデルは60代後半はもちろんのこと、80から85歳の方が大半を占めるとしており、住宅型有料老人ホームとして、自立している方がホテルライクな生活の場として、介護が必要となった時も安心して車いすで生活ができるよう、きめ細かい配慮をした。
窓は大きく開放的な足元までのフィクス窓と引込窓の組み合わせである。夏の強い日差しを遮り、冬は暖かい光を部屋に導く奥行きの深いテラスは、緑の景色を取り込み、窓からの緩衝スペースとして入居者に安心感を持たらせるものとした。
個室を広く設定したことは、今まで使用していた思い出深い家具を持ち込み、個人としての生活と、みんなで楽しむという生活をバックアップするもの。元気な方は介助による入浴より、自室でシャワーを浴び、ミニキッチンで簡単なおやつを作ったり、お茶を入れて趣味の何かをする。また、ティールームや食堂でみんなと談笑したり、軽い体操やデパート、スーパーでの買い物や映画観賞、趣味の会で学んだりと、若い多数のスタッフに囲まれて楽しく過ごして頂きたいと考えて設計し現場を管理した。
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